Mocky / Key Change ('15) : HEAVYSHEET003

 

 “Key Change”のなかで鳴っている一つ一つの音には、聴いている人を包みこむような優しさから、愛情を持ちながらも同時に客観視する乾いた視線、いわば優しさの前に半透明の帳があるような感情まで、ただワンパターンによって組み立てられた喜怒哀楽ではない複雑な感情と興奮が混在しています。それは一人の人間のなかで消化しきるにはあまりにも広大な感情です。だから、僕はこのレコードを聴くたびに、誰かとその内容についてああだよね、こうだよねと語り合いたくなるのです。

 

 Mockyはカナダ生まれ。元々はダンス・ミュージックのフィールドで活動していましたが、2009年に発表し話題となった“Saskamodie”からは生音を中心としたポップスともソウルとも言えない独特の活動を展開しています。近年では日本のミュージシャンからの評価が高く、坂本慎太郎からceroまで幅広いジャンルの人々に支持されています。

 

 

 僕はこのレコードを聴くたびに、流行に左右されることなく決して多くはないけれど少なくもない人々魅了し、そして言葉によって紡がれることで聴き継がれ、そこで起こる時間の濁流を耐えうるだけの力を持つ音楽があるということを再確認させられます。ときどきこういったレコードに運よく出会うことがありますが、“Key Change”は少しだけ特別。「When Paulie Gets Mad」を聴いているとその思いが強くなり、いつかどこかに置き忘れてしまった物や事柄とともに、誰かに小さなヴォリュームで“key Change”のことを語りかけたくなります。