矢野顕子 / Piano Nightly (’95):ESCB-1677

 

 

 愛ってなんだろう。多分その答えを見つけるできるほど人間は洗練されていないでしょう。でも、このアルバムを聴いて「お前の中で雨が降れば ぼくは傘をとじて濡れていけるかな」「目が潰れ耳も聞こえなくなって それでも君を愛しているんだ」「君がもし砂漠で迷ったら ぼくは君の井戸になりたい」「虹が出たなら君の家まで 七色のままで届けてあげよう」「忘れずにいるよ ぼくらのために逝ったきみ」といった歌詞に触れるたび、愛は自分のためのものではなく、思いやる相手のためにあるのだな、と強く思わせられます。

 

 今回紹介するのは矢野顕子が95年に発表した『Piano Nightly』。このアルバムはThe Boomや細野晴臣、大貫妙子といったミュージシャンの曲を矢野顕子が選曲し、自身の解釈で弾き語りしています。このアルバムは音楽を聴くというよりは、矢野顕子がピアノと声というツールを用いて語りだす物語に耳を傾けるという感覚のほうが合っているような気がします。つまり曲が収録されているというよりは、15の物語が収めされているといったほうが正しいのかもしれません。それぞれのストーリーは聞く人の胸を夜の地平線の隅に追いやられたような寂しさで締め付けます。そしてそれと同時に、人間が持つ優しさと包容でその弱さを受け止め、抱きしめてくれるのです。それは彼女が愛の一部を知っているからこそできる作業なのではないでしょうか。